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コラム
2016/11/10

EBM(根拠に基づく医療)とは・後編 ~間違った“医学常識”を正せ~

今から数十年前のことです。フィンランドの保健当局が、健康診断や健康指導にはどのくらい効果があるのかを調べるために、以下の実験を行いました。

 

まず心血管系疾患のリスク因子を持つ40歳から45歳までの管理職1,200人を選び、くじ引きで2つのグループに分けます。そして片方の600人に対しては毎日の運動を指示し喫煙、飲酒、糖分の摂取などを控えるよう指導。さらに健康診断や栄養学的な調査などを定期的に行い、必要に応じて投薬を行います。もう一方の600人に対しては、いかなる健康管理も実施せずに放置しました。

 

この実験を15年間続けたのち、両方のグループを比較したところ、はっきりした違いが現れました。心臓や血管系の病気、死亡、自殺などの数において、一方のグループが少なかったのです。それはなんと、健康管理をしない人々でした。

この事実に衝撃を受けた医師らは、実験結果の公表を控えたそうです。

 

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次に紹介するのは1970年代のイギリスでの話です。当時は手術不可能な肺がんの患者さんに対し、多種類の抗がん剤を少しずつ使う方法が専門医の間で広まっていました。副作用が少なく、効果が高いと考えられていたからです。

 

あるとき、一部の研究者らがこの治療法の有効性を評価するため、次のような実験を行いました。同様の患者さん188人に対して、「抗がん剤を4種類使う」「1種類だけ使う」「使わない」の3つのグループに分けて治療し、その後の経過を比較したのです。

すると、驚いたことに治療成績がもっとも良かったのは抗がん剤を使わないグループであり、4種類使うグループは最低だったことが分かりました。

 

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さて、問題です。こうしたケースは医療全体の中で、ごく例外的なものでしょうかそれとも氷山の一角にすぎないでしょうか

信じられないかもしれませんが、答えは後者です。

 

今、医療は大きな転換期を迎えています。ヒトゲノム解析、ナノテクノロジーなど華々しい技術革新が進む一方、その裏では従来の医療方針を洗い直す地道な作業が進められています。それほどに現代医学の「常識」の中には危ういものが多いのです。

当たり前のように行われている検査の妥当性や治療の有効性を検証し直すプロジェクト、それがevidence-based medicine(根拠に基づいた医療)、略してEBMです。

 

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EBMでもっとも重視される実験形式は次のようなものです。

まず実験対象となる患者さんをできるだけ多く集め、それを無作為に2つに分けます(場合によっては性差、年齢、職業、家族歴などを均等に振り分けることで個体分布の偏りをなくします)。そして片方のグループにはAという治療を、もう片方のグループにはBという治療をして、その後の経過を追跡します。

例えば実験対象が投薬に関するものであれば、本物の薬と偽薬をそれぞれのグループに投与し、患者さん自身も担当医もどちらの薬が出されているのか知らされないまま行われます。最後に追跡調査の結果を両グループ間で比較し、医療統計学を駆使して効果を判定するのです。

 

こうした実験形式(比較試験)にはどのような意味が隠されているのでしょうか?

それはプラセボ(またはプラシーボ)効果を排除するためです。偽薬(ショ糖やでんぷんで作った効果のないタブレット)を飲んでも、症状が改善してしまうという「プラセボ効果(心理的な思い込みによって症状が改善する現象)」によるものなのか、それとも本当に薬の成分による効果なのか、それを見極めるための実験なのです。

 

一般に偽薬を飲んだグループにも4~6割程度回復する人が現れてしまうため、その改善率と本物の薬を飲んだグループの改善率を比較して、後者の数字が優位に上回っていることが判明すれば、そこではじめて『その薬の効果は本物だ』と判定されるわけです。

 

このような実験方法を無作為化比較試験(Randomized controlled trial:RCT)といいます。

EBMではひとつのテーマに沿って行われた世界中のRCTを第三者機関が収集分析し、その結果を発表するという手順を踏みます。そうした情報が定期的に更新され、インターネットやCD-ROM、書籍などで公表されています。

そのデータをもとに各疾病のガイドラインを作成したり、現場の医師が治療方針を決めるのに役立てたりしているのです。

 

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EBMではRCTのほかに以下のような研究も行われています。

 

■ケースコントロール研究

疾患や病態が既に発生している患者さんのグループとそれらが発生していないグループにおいて、過去に遡って危険因子を比較するというもの。たとえば肺ガンになったグループとそうでない人のグループにおいて、それまでの生活習慣(喫煙の有無や量・運動・食事など)における危険因子を比較する。

 

■コホート研究(前向き)

あらかじめ調べておいた「病気になる危険因子」の集団がその後どのようにして発症していくのかを観察するもの。たとえば、ヘビースモーカーの集団がどのようにして肺ガンを発症していくのか、あるいは肥満の集団がどのようにして生活習慣病を発症していくのかを追跡調査する。

 

■コホート研究(後ろ向き)

既に病気を発症している集団が、それまでどのような状態(仕事・環境・栄養・運動)にあったのかを調査する。たとえば、脳卒中を起こした人々が過去にどんな生活を送っていたのかなど。

 

■横断的研究

たとえば腰痛と画像診断の関係を調べる際、腰痛の患者100人、健常者100人を集め、それぞれのレントゲン・CT・MRIの写真を比較し、その結果を分析する。

 

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基本的にコホート研究は大規模な疫学調査(数万人~数十万人規模)で使われ、横断的研究は時間軸における定点観測あるいは短い期間でのデータ収集を基本とし、主に診断法に関して用いられます。

1990年代に発表された「腰痛の85%が原因不明である」という衝撃的なデータは、画像診断に関する横断的研究の成果として有名です。

 

ご参考までに、EBMによる医療の変革を知る上で一番身近な例を紹介しておきます。「風邪と抗生物質の関係」です。

抗生物質は細菌を殺す薬ですので、ウィルスには無効です。風邪の8~9割はウィルスが原因ですので、抗生物質は一般的な風邪には効きません。

 

それではなぜ風邪に処方されることが多いのか。日本では肺炎などの二次感染を防ぐ目的で使われています。ところが、EBMによって「二次感染の予防効果はない」ことが判明したため、欧米では抗生物質が風邪に処方されることは通常ありません。

日本においても日本呼吸器学会がEBMに基づくガイドラインを発表し、安易に抗生物質に頼ることを戒めていますが、いまだに「風邪は抗生物質で治す」と思い込んでいる人が多いようです。

 

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インフルエンザに関しても、パンデミックが予想されるような強力なものでなければ、ヨーロッパでは「自宅安静」が一般常識であり、医師から処方される抗ウィルス薬(たとえばタミフルなど)に頼ろうとする習慣はありません。

ウィルスに負けない抵抗力、免疫力を回復させることが一番の近道であるということを知っているからでしょう。

 

「抗生物質依存社会」を変える一番の方法は、私たち一人ひとりが「本物の健康とは何か」を考え、学び、安易に病院や薬に頼るのではなく自分の健康を自分で守っていくことではないでしょうか。

これからも、医学の常識はどんどん変わっていくと思います。いや、間違った常識は正していかなければなりません。

そのためにも、「EBM(根拠に基づいた医療)」が大きなカギを握ることでしょう。

 

お後がよろしいようで...お退屈様でした<m(__)m>

 

 

 

※このコラムはBFI研究会代表・三上先生の書かれたブログ記事を編集したものになります。

 

 

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2016/11/09

EBM(根拠に基づく医療)とは・前編 ~数字のマジックに騙されないために~

今から数年前のことですが、「腰痛・肩こりはガン赤信号!」と銘打ったテレビ番組がありました。このような情報は一般の人々に誤ったイメージを抱かせる危険があります。

 

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この番組ではガンを患った人々のアンケート結果をもとにして、腰痛・肩こりはガンの赤信号だと結論づけていました。

しかし、この論旨には重大な誤りがあります。

腰痛・肩こりをもっている人がガンを患った場合、たしかに痛みが強くなる傾向は認められますが、一般的な腰痛・肩こりの99%はガンではありません。

 

「腰痛・肩こりがガンの赤信号」だとする結論は“数字のマジック”です。確率の計算方法に誤りがあるのです。

分母をガン患者に設定して腰痛・肩こりの頻度を求めてしまうと、無視できない数字として現れてきます。もともと体調に何らかの異変が現れてしかるべきハイリスク集団を対象にしているのですから、ある意味当然の結果といえます。

 

しかし、そうではなく、この番組の趣旨からすれば『腰痛・肩こりのなかにガンが潜んでいる』確率を求めるのが筋というものです。

この場合であれば、分母を腰痛・肩こりの患者さんに設定してガンになる確率を計算しなければなりません。すると、その数字は1%以下ということになります(既にガンの治療を受けている人、及びガン治療中の骨転移などによる痛みは含みません)。

 

たとえばアメリカの公立病院で行った調査では、腰痛で来院した1,975名中、13名がガンによる痛みだったと報告されています。これは腰痛だけのデータですが、0.66%という数字になります。

 

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BFI研究会代表・三上先生の臨床における調査では、過去3年間で来院された腰痛・肩こりの患者さんのうち、ガンが判明した確率は0.8%だったとのことです(2011年当時の結果)。

つまり腰痛・肩こりの患者さんが1,000人いたとすれば、その内ガンが判明する人は8人。この数字から、「腰痛・肩こりはガンの赤信号」などと言えるでしょうか。

 

※注:医療センターや大学病院で同様の統計を出せば、その数字は1%を超えるかもしれませんが、これは一般論として採用しにくい数字です(重症例が集まる場所では統計的に偏りが出てしまうため)

また、腰痛・肩こりがあったとしても医療機関を受診しない人もいるので、そういった人たちを分母に設定した場合も数字は変わってくるかもしれません。

 

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少し話は逸れますが、「手術の成功率は80%です」と言われたとき、あなたなら何を考えますか?「高い成功率だ」と安心する人、「失敗する確率が20%もあるのか」と心配する人など反応は様々だと思います。

しかし、実はこうした「…%」という表現には気をつけなければならないことがあります。確率を計算するときの分母が分からないケースがあるからです。

 

この場合でいえば、誰が行った手術の成績なのかはっきりしません。分母が「執刀医個人」による数字なのか、それとも「病院全体」なのか分かりません。場合によっては「学会」が発表した数字ということもあり得ます。分母に設定したものが何であるかによって、「80%」の意味が違ってきてしまうのです。

 

ちなみに私が患者の立場なら、執刀医自身の数字、それも何%という確率の表示ではなく、何人の患者を手術して、そのうち何人が成功したという自然頻度の数字を知りたいですね。

 

こうした確率や統計の考え方は難しいですよね。私は特に数学…いや、算数が大の苦手なので、数字を見ただけで拒否反応が起きてしまいます(笑)。

興味のある方は「数字に弱いあなたの驚くほど危険な生活―病院や裁判で統計にだまされないために(早川書房)」という本がオススメです。

 

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ところで、日本語においては主語の下に来る「は」と「が」の使い分けがよく問題になります。

昔、三上章という日本語学者が自著「象は鼻が長い」において、「わたしは…」の「は」は「わたしに関して言えば…」という意味だと解説しておられました。

つまり「わたし」という主語に関する説明がそのあとの文章に続くのが、日本語における「は」の正しい使い方だというのです。「象は鼻が長い」というのが正解であって、「象が鼻が長い」とは言わないわけです。

 

例のテレビ番組が大きなテロップに出した「腰痛・肩こりはガンの赤信号」という日本語を考えた時、「腰痛・肩こりに関して言えば、ガンの赤信号」という意味になります。つまり、その根拠となる統計を出すためには先ほどもお伝えした通り分母は当然「腰痛・肩こりの患者さん」でなければならないわけです。

腰痛・肩こりとガンの関係を扱うのであれば、視聴者に余計な不安を与えないように、より慎重な表現を心がけるべきではないでしょうか(もっとも、それがテレビの狙いなんでしょうけどね)。

 

実はこうした確率や統計の考え方は、現代医学において非常に重要、かつ不可欠な視点となっています。

 

もし、今まで「医学の常識」とされていたものが一部の人間たちの先入観や思い込み、利権のために正当化、常識化されているだけだったとしたら…?

それを科学的な手法でその真偽を見定める必要があるからです。

 

では、続きはまた次回。お後がよろしいようで...お退屈様でした<m(__)m>

 

 

 

※このコラムはBFI研究会代表・三上先生の書かれたブログ記事を編集したものになります。

 

 

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