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コラム
2017/01/07

腰椎椎間板ヘルニア ~画像診断の矛盾~

前回のコラムでは、「EBMによって腰痛の85%が原因不明ということが分かった」という話をさせていただきました。

 

今回は、“椎間板ヘルニア”の問題を取り上げることにします。
腰痛の世界で最もポピュラーな病名であり、手術すべきかどうか?と一番悩まされることの多い腰痛…。

その核心に触れる前に、ヘルニアの謎を少しだけご紹介しておきたいと思います。

はじめに、臨床の現場から…。

 

右下肢にしびれがあるのに、MRIでは左側にヘルニアが見つかった』
痛みやしびれがごく軽度なのに、MRIでは巨大なヘルニアがある』
激烈な症状があるのに、MRIではごく小さなヘルニアしかない(強烈な痛みとしびれを引き起こすような変化が見当たらない)
『MRIで椎間板ヘルニアと診断されて入院したが、2週間後には症状が消えてしまったため再びMRIを撮ったところ、画像上は変化がない(つまり、ヘルニアはそのままで痛みだけが消えてしまった)』

 

このように、専門家の間では患者さんの症状とMRIの結果が一致しないということは、以前から知られていました。
であれば、当然ヘルニアとはいったい何なのだろう?という疑念が浮かびます。

 

そこで、「今一度ヘルニアについて洗い直してみよう」という動きが、1990年代の欧米で起こりました。
ちょうどそのころ医学界を席巻し始めていたEBMを導入することで、より客観的なヘルニアの研究が行われたのです。

 

すると、次々に衝撃的な事実が判明しました。

その内容は、「無症状のヘルニアがたくさん見つかった」というものす。
現在こうした事象は研究者の間では周知の事実となっており、無症状のヘルニアを「MRIヘルニア」と呼んでいます。

 

それでは、「MRIヘルニア」はどのくらいの頻度で見つかるのでしょう?
1995年に発表されたBoosらの論文(椎間板ヘルニアが本当に腰痛の原因となるかどうかを調べる研究)では以下のように報告されています。
「痛みのある椎間板ヘルニアの患者のグループ」と「腰痛のないグループ」において、それぞれの職業内容・年齢・性差・生活習慣などの条件を同一にしたうえでMRIを比較した結果、腰痛のないグループの76%にヘルニアが見つかり、85%に椎間板の変性が見つかりました。

 

これは驚くべき数字です。

正常な人たちの7割以上にヘルニアがあるのですから!

しかもこの論文が出される以前にも、MRIによる腰痛群と無症状群を比較するという実験は複数の研究者らによって行われており、いずれの研究においても3~8割の「無症状ヘルニア」や「無症状の変性椎間板」が見つかっています。

 

このため1994年に発表されたアメリカの腰痛ガイドラインでは、
『変形性脊椎症が単なる退行性変化であるのと同じように、変性椎間板、椎間板ヘルニアもまた単なる老化のサインに過ぎず、腰痛の原因としては見当違いの所見かもしれない』
と論旨されています。

 

さらに1998年、WittenburgらはEBMに則った比較試験を厳密に行うことで、
『MRI上のヘルニアと神経症状の間には関係がない』
ことを証明し、MRIのみでは診断できないと結論付けています。
日本ではいまだにMRIに頼った診断が続いていますが、このように海外においては「MRIのみでは確定診断できない」という厳然たる事実が示されているのです。

 

したがって椎間板ヘルニアの診断に際しては、臨床所見すなわち患者さんの訴える痛みやしびれの強さ・場所・範囲、知覚異常の有無・範囲、筋力低下の有無、腱反射の異常、日常生活における動作の評価などをきめ細かく精査し、そのうえでMRIと患者さんの症状を照合させ、より精密に、より厳密に判断する必要があります(そこまで細かく診察してもらったことがある方はいらっしゃいますか?)
そのようにして患者さんの症状とMRIの関係を突き詰めていくと、完全に一致することは極めて少ないということが言えるのです。

 

お後がよろしいようで...お退屈様でした<m(__)m>

 

 

 

※このコラムはBFI研究会代表・三上先生の書かれたブログ記事を編集したものになります。

 

 

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あおぞら整骨院
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2016/12/17

腰痛の85%は原因不明

1994年、アメリカの厚生省が「成人の急性腰痛治療ガイドライン」を発表しました。
そしてその2年後、イギリス医師会が「クリニカル・エビデンス」という本を出版しました。
いずれもEBM(根拠に基づく医療)を実践するための、画期的なプロジェクトです。
世界中のRCT(無作為化比較試験)論文を調査した結果をまとめ、現時点におけるエビデンス(証拠)を載せています。

 

この両者において「腰痛の画像診断に対する見解」はほとんど一致しており、従来の常識を覆すものとなっています。

 

まず「腰痛」の定義についてですが、前出の「クリニカル・エビデンス」によれば、
『腰痛とは、肋骨の下縁から臀部にかけて局在する疼痛、筋緊張あるいは硬直であり、下肢の痛みを伴う場合と伴わない場合がある』
とされており、先進諸国の国民の7割以上が、生涯のいずれかの時点で腰痛を経験すると述べています。

 

そして腰痛の病因に関しては、
『患者さんの症状とレントゲン所見はあまり相関せず、約85%の人が原因を特定できない』
と論旨しています。

 

レントゲンで原因を見つけることができない腰痛が、どうして8割以上に及ぶのか?

それは「背骨の形態変化を指摘する」という説明には、何ら科学的根拠がないことが分かったからです。

従来まで原因と考えられていた骨の変化(構造的な欠陥)は、実際には痛みを引き起こすとは限らないことが、世界中から寄せられた実験報告から判明したということです。

 

それでは、いったいどのような実験が行われたのでしょうか?
当院コラム「EBM(根拠に基づいた医療)とは・後編で紹介したとおり、画像診断に対する横断的研究の成果といえます。

具体的には、腰痛のある人々と腰痛のない人々のレントゲン写真を比較するという手法によって明らかにされました。

以下に腰痛とレントゲン写真の関係について、いくつかの実験結果を紹介してまいります。

 

背骨の腰の部分は、5つの骨からできています。
これを腰椎といいますが、一般に腰椎は前方にゆるやかなカーブを描いています(生理的前彎)。
このカーブの消失(腰椎の直立)やカーブが強すぎるもの(腰椎の過前彎)も、「痛みの原因」とされています。
それは過去のコラムでもお話ししたとおり、整形外科は『形の変化=痛みの変化』と考えているからです。

 

ところが、「痛みのない200名」「急性腰痛の200名」「半年以上続く慢性腰痛の200名」の3つのグループにおいて、それぞれの腰椎前彎の角度をレントゲンで調べた結果、この3つのグループ間で違いはありませんでした。
これによって、背骨のカーブと痛みの間には何ら相関性のないことが確かめられたのです。

 

次に、腰椎すべり症の場合はどうでしょうか。
腰椎すべり症とは、腰の骨の並びが前後にずれてしまっているものです。
腰痛のある308名と症状のない376名を調べた実験では、両グループともにすべり症が約3%見つかっています。
つまり腰痛があってもなくても「すべり症の変化」は同頻度に見つかるのです(単一の実験報告ではなく、複数の論文において同様の結論が出されています)。

 

では、腰椎分離症の場合はどうでしょう。
実は日本人の約6%に分離があることが分かっており、自覚症状のない人も大勢います。
これもすべり症と同様の実験において同じ結果が得られており、腰痛との因果関係は証明されておりません。

 

それでは、分離とすべりの両方が合併している分離すべり症ではどうでしょうか。
1996年にMuschikという研究者が次のような論文を発表しています。
プロのバレエダンサーをレントゲンで調べた結果、32%に分離症が見つかり、そのうちの8割がすべり症を合併していました。
そこで、分離すべり症のあるダンサーらと分離すべり症のないダンサーらの腰痛発生率を比較してみたところ、ほとんど差がなかったと報告しています。
つまり「分離」や「すべり」があろうとなかろうと、腰痛の出現率に差はないのです。

 

さらに、ドイツで行われた青少年のスポーツに関する実験では、分離症やすべり症のあるスポーツ選手に対して、5年間集中的なトレーニングをさせたところ、約40%の選手にすべりの増加が認められましたが、腰痛を発生させた者は皆無でした。
「分離」や「すべり」が見つかると、医師から「激しいスポーツは一生できない」と言われるケースがありますが、そうした説明には何の根拠もないわけです。

 

また、加齢に伴う背骨の老化や変形(骨が潰れている、骨が変形している、背骨が歪んでいる、骨棘が神経を触っている、などと説明されるもの)を「脊柱の退行性変化」といいます。

これらにおいても、腰痛があるグループと腰痛がないグループのレントゲンを比較した結果、両者ともに同頻度に認められるという調査報告が多数寄せられています。

「脊柱の退行性変化は老化の単なるサインにすぎず、腰痛の原因とは考えられない」というのが研究者らの共通した見解です。

 

さらに、骨の形態異常(潜在性二分脊椎、腰仙移行椎、軽度の側弯など)においても、複数の実験において腰痛があるグループと腰痛がないグループに同頻度に見つかることが分かっています。

 

このように世界中の実験報告を分析し、EBM(根拠に基づく医療)の手法に則って検証した結果、これまで腰痛の原因として考えられてきた「背骨の形態異常」の多くが腰痛とは無関係であることが分かったのです。

 

そして、これらのデータに統計学的な処理を加えていった結果、結局「腰痛の85%は原因不明」という現実に辿りついたわけです。
こうした事実は日本においても、平成17年12月の読売新聞「医療ルネサンス」の記事で紹介されています。
興味のある方は、同新聞社が発行している『医療ルネサンス・4,000回「読売新聞の医療情報」』というCD‐ROMで閲覧することができます。

 

 

お後がよろしいようで...お退屈様でした<m(__)m>

 

 

 

 

※このコラムはBFI研究会代表・三上先生の書かれたブログ記事を編集したものになります。

 

 

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2016/11/24

画像検査が意味するもの・後編 ~画像診断の矛盾~

現代整形外科は、『腰痛とは骨格の損傷、または形態異常である』

 

という大前提のもと、治療にあたってきました。

要するに、背骨のどこかに傷があるから、形に異常があるから痛むんだと考えてきたわけです。

この概念は1世紀ものあいだ、揺らぐことはありませんでした。

 

なぜこういった考え方から逃れることができなかったのか?

その答えはコラム「整形外科の歴史と慢性痛・前編後編 」で詳しくお話しさせていただいたとおりです。

 

しかし、検査技術の発達がそのような考え方を強烈に後押ししてしまったという、なんとも皮肉な背景があるのも、また事実です。

1895年にX線が発見されて以来、レントゲンによる背骨の観察が進む中で、けがの有無に関わらず様々な損傷や形態異常が見つかったのです。

 

その結果、加齢にともなう生理的な(自然な)骨の変化…つまり、骨の老化と変形までもが異常な所見としてとらえられるようになりました。

また、背骨にみられる小さな個性(生まれつきある個体差)すべてが異常な所見として指摘されるようになりました。

その例として、「潜在性二分脊椎」「腰仙移行椎」「シュモール結節」「椎体偶角離断」「前彎消失」「軽度の側弯」などがあげられます。

 

さらにCTやMRIといったハイテク画像検査の登場によって、背骨の欠陥探しにますます拍車がかかります。

そんな中、専門家たちの眼は「椎間板」に釘付けになりました。

骨と骨の隙間にある椎間板はクッションの役割があること、加齢にともなう変性を生じやすい(潰れやすい)こと、ヘルニアの原因になるなどの理由もあり「椎間板原因説」が世界を覆いつくしたのです。

 

こうして研究者たちの多くが背骨の欠陥探しに傾倒していく一方で、骨に異常が見当たらない腰痛は「なんだか分からない腰痛」として、あまり熱心に研究されませんでした。

しかし、プライマリケア(初期医療)の現場ではこうした腰痛が思いのほか多かったため、姿勢や筋肉の問題(筋肉疲労・筋力低下・姿勢異常)を指摘する医師らによって、種々の体操療法、筋肉トレーニング、ウォーキング、水泳などが指導されることになったのです。

 

このように、現代整形外科では最初に「背骨の構造的欠陥」を探します。

それが見つかった場合、修復可能なものには手術を選択し、修復不能または欠陥が小さなものには対症療法を施します。

そして、骨の異常が見つからないものには姿勢や筋肉に焦点を絞った治療をしてきたのです。

 

ところが1990年代、医療界を一変させる出来事がおこります。

EBMの登場です(EBMに関してはブログ「EBM(根拠に基づく医療)とは・後編」で詳しく紹介しています)。

 

EBMによって、従来の画像診断には多くの矛盾があることが分かりました。

 

画像検査で見出される「形態異常」の多くが、実は正常な健康人にも多く見られることが分かったのです。

「腰痛はそれまで考えられてきたようなシンプルな問題ではない。形態異常を探して修復するという考え方は通用しない」つまり、

 

「形の変化≠痛みの変化」

 

という事実が科学的に証明されてしまったのです。

 

内科、外科、産婦人科、小児科、耳鼻科などたくさんある医科の中でも、整形外科ほどEBMが脅威に映った科は他にないと思います。

「風邪の抗生物質の使われ方」どころの話ではありません。

各論が問題にされているのではなく、画像診断という考え方そのものすなわち総論が問われているからです。

 

次回はEBMによって明らかになった「画像診断の真実」について、具体例を挙げて説明してまいりたいと思います。

 

お後がよろしいようで…お退屈様でした<m(__)m>

 

 

 

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2016/11/24

画像検査が意味するもの・前編 ~画像診断の科学的根拠~

腰痛の患者さんが整形外科を受診すると、通常であればレントゲンを撮って診断され、その結果に沿った治療が行われます。

この時の画像検査による診断を「画像診断といいます。

 

そのため、画像に写っている骨の変化が診断名、すなわち病名となります。

骨の老化や変形が写っていれば「変形性脊椎症」、背骨の分離やすべりが写っていれば「腰椎分離症」または「腰椎すべり症」、骨と骨の隙間にある椎間板が潰れていれば「腰椎椎間板症」といった感じです。

 

それでは骨の変化がなかった場合、どんな診断になるのでしょうか?

それは「筋筋膜性腰痛症」、または単に「腰痛症」という病名がつきます。

これは原因がよく分からない腰痛という意味です。

 

症状の程度から判断して、さらに詳しい検査が必要な場合はCT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(核磁気共鳴断層装置)といったハイテク画像検査を行います。

これらの検査でヘルニアが見つかれば「腰椎椎間板ヘルニア」、背骨の狭窄が見つかれば「脊柱管狭窄症」といった診断が確定します。

 

一般的な整形外科ではほぼ間違いなく画像診断を行いますが、これ以外にも腰痛を診断する方法はあるのでしょうか。

要するに、画像検査以外に腰痛の原因を探る方法はあるのか?という質問です。

 

整形外科の視点で考えるなら、その答えはNOです。

視診や触診などで身体所見も当然調べますが、これらはあくまで補助的な役割とされているため、画像検査なしでの診断というのは事実上あり得ません。

なかには例外もあるかもしれませんが、ほとんどのケースでレントゲンによる診断を行っています。

 

整形外科は「形態の異常を修復するプロ集団」です。

“形の変化”を見つけ、それを診断のよりどころにしようとするのは当たり前なのです。

というか、それこそが整形外科の本質になります。

 

つまり、整形外科にとって形態学を無視した診断」はあり得ないです。

以上の現実を踏まえたうえで、腰痛は次の2つに分けることができます。

●画像検査によって、原因を特定できるもの

●画像検査によって、原因を特定できないもの

 

医療機関によってその比率は多少変わりますが、一般的な数字として前者が15%後者が85です。

要するに、腰痛の患者さんが整形外科を訪れた場合、その8割以上は原因不明という結果が待っているのです

 

ということは、先ほど挙げた病名のなかで「骨の変化がなく、原因が分からない腰痛」すなわち「腰痛症」が8割もあるのでしょうか?

ところが、そうではありません。

実は、骨の変化を診断名にしている腰痛も、痛みの原因がどこにあるのか分かっていないのです。

たとえ「腰椎分離症」や「変形性脊椎症」などの診断名を言われても、痛みの本当の原因は分からない」…これが科学的根拠に基づいた「医学上の正式な見解」なのです。

 

画像診断による病名が痛みの原因を表しているとは限らない。

診断そのものに不確定の要素がかくれている。

これは、腰痛治療において最も根本的な、かつ重大な問題です

 

このような話をすると、「信じられない」「よくわからない」と理解に苦しむ方も多いかもしれません。

現実には、腰痛を訴えて病院に行けば、ほとんどの場合レントゲン検査を受け、画像診断にもとづく病名を聞かされるはずです。

骨に変化があればそれを指摘され、なければ姿勢が悪い、筋肉が弱っているなどと言われると思います。

 

しかし、そのような説明には一切、科学的な根拠はないのです

コラム(腰痛治療の現状)でもお話しましたが、現段階で腰痛のメカニズムに対する世界的な統一理論というのは存在しません。

脊椎の世界的権威といわれるNachemson氏も、『腰痛の原因にはいろいろな説があるが、科学的に証明されたものはない』と断言しています。

 

後編へ続く…お退屈様でした<m(__)m>

 

 

 

※このコラムはBFI研究会代表・三上先生の書かれたブログ記事を編集したものになります。

 

 

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2016/11/12

整形外科の歴史と慢性痛・後編 ~慢性痛の発見と整形外科の苦難~

1960年代、麻酔科の一部の医師が「ペインクリニック」を開設、痛みの専門外来を作りました。診療をしていく中で、いろいろな治療をしても消えない痛み、つまり慢性的に続く痛みを発見。麻酔科医の医師たちは、この痛みを慢性疼痛」略して慢性痛と命名したのです。

痛み研究の先駆者として名高いBonica博士は、その著書「Management of Pain」の中で、『慢性痛とは、疾患が通常治癒するのに必要な期間を越えているにもかかわらず訴え続けられる痛み』と述べています。

 

同じ頃、整形外科でも同様の痛み(慢性的に続く運動器の痛み)を認知し始めていました。しかし当時はケガの痛みも慢性的な痛みも、基本的には同じメカニズムのものであると認識されていました。つまり、『ケガの痛みが何らかの原因で長く続いているのが慢性痛である』という考え方です。

ちなみに、私も専門学校ではそのように習いましたし、以前勤めていた整形外科でもそのように習いました(気が付くともう10年以上前...笑)。

 

通常は、ケガそのものの修復が完了すれば同時に痛みも消えます。ケガの痛みは「生命維持への警告サイン」と言えますので、患部が癒えればそのサインを出す必要がなくなるからです。

ところがケガをした場所の修復作業が終わっているのに痛みだけが残っている。これが慢性痛だと考えられていました。

そのため、整形外科ではどのような痛みに対してもまず画像検査を行い、どこかに骨の損傷はないか、あるいは過去に傷ついた痕跡はないかと探します。

 

ところが、患者さん自身にケガをした覚えが全くない場合、「慢性痛はケガの延長線上にある」という考え方は通用しません。転んでもいないし、ぶつけた覚えもないという患者さんに対して、「あなたが思い出せないだけで、本当はどこかで捻ったのではありませんか」というような論法では、とうてい無理があるわけです。

 

そこで登場したのが、いわゆる金属疲労ならぬ筋肉疲労」という考え方です。使い過ぎ、動き過ぎ、働き過ぎが原因というわけです。

ところが、実際には肉体的な負担がない人たちにも痛みは生じます。すると、今度は筋力低下」や「姿勢異常」という概念が登場しました。

 

その一方で、肉体的な要因をどうしても見出させない人々に関しては心の問題が指摘されるようになりました。

特に1990年代以降は肉体的な問題だけでは運動器の痛みを合理的に説明することは難しいとされ、心理社会的因子(社会生活を営む上で、個人が背負う様々なストレス要因)をより重視する声が高まりつつ、現在に至っています。

 

整形外科はその生い立ちや発展の歴史からも明らかなように、その治療目的は本来、「形の正常化」と「組織の修復」です。

特に1960年代以前、整形外科医が経験する痛みの多くは「組織の損傷を知らせる警告サイン」でした。そのため痛みに対しては副産物に過ぎず、組織が修復されれば消える」という程度の認識しかなかったのです。

 

ところが、こうした警告サインとしての役割をもたない痛みである「慢性痛」が発見されます。20世紀後半における先進諸国の高度経済成長が続く中、運動器の慢性痛が爆発的に増えた結果、整形外科の苦難の歴史が始まることになります。

多くの慢性痛では、その理由となるべき患部の変化が見当たらない痛みの原因として本来あるべき傷がないわけです。

基本的に「組織の損傷を修復することを生業としてきた整形外科」にとって、それは未知の痛みでした。

 

その中の最たるものが腰痛といえます。いろいろなタイプの腰痛がある中で、「患部の変化が見当たらない腰痛」が一番多いからです。

治療する機会の多さを考えれば腰痛こそが整形外科医にとって最大の謎であり、「未知の痛み」だったと言えると思います。

しかも患部の変化が見当たらない腰痛に対しては、その治療に情熱を傾ける医師が極めて少なかったのです。臨床において大きなウェイトを占める腰痛に対して、整形外科医はなぜ熱くなれなかったのか?

 

整形外科の生い立ちを知っていただいたみなさんは、もうお分かりですよね?

「修復すべき傷が見当たらない」ということは、つまり治療すべき対象が見つからないということです。極論を言えば、「本来あるべき傷」がない時点で整形外科の仕事ではないと言っても過言ではありません。

その一方で、「本来あるべき傷」が見つかった腰痛に対しては整形外科の腕の見せ所です。思う存分、技術(手術)を発揮することができます。

 

ところが、この一番得意にしているはずの腰痛に対しても、悩ましい現実が待ち受けていました。原因と考えられる形態異常や損傷を修復しても、痛みが消えない場合があったのです。

「本来あるべき傷」が見つかり、それを手術で治したにも関わらず痛みが残ってしまう、あるいは再発してしまう...こうなると、整形外科としてはもう完全にお手上げです。訳が分からない...。

 

こうした整形外科の混乱は、実に1990年代の半ば頃まで続きました。

 

 

お後がよろしいようで...お退屈様でした<m(__)m>

 

 

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2016/11/11

整形外科の歴史と慢性痛・前編 ~整形外科の誕生と発展~

運動器の慢性痛(腰痛や肩こりなどに対する初期医療は、欧米ではプライマリケア医が担っています。いわゆる家庭医」が初診を担当し、投薬その他の保存療法で様子を見て、必要があれば手技療法整体やマッサージなど)の治療家を紹介し、手術適応と考えられる症例には整形外科を紹介するといった流れになっています。

 

では日本はというと、整形外科が初期医療から手術までを一貫して診ています。ですが、実はここにある問題が隠れているのです

整形外科医はあくまで手術が専門の「外科のスペシャリスト」です。大学の医局で学ぶほとんどの対象は「手術」であり、保存療法については関連書籍を読む程度で、本格的に学べる医局は極めて少ないのが現状です。

要するに、整形外科医の多くは手術のプロであって、保存療法のプロではないわけです。

 

ところが開業すると、そこに来る患者さんの99%は保存療法が対象の人たちです。そのため整形外科医は、開業してから初めて臨床経験のほとんどないまま保存療法を実践し始めるということになります。

要するに日本では、「手術のプロ」が開業してから「保存療法のプロ」を目指すという構図になっているわけです。

 

欧米では冒頭でお話ししたように、多くの場合プライマリケア医が最初に診察したうえで、そこから必要に応じて専門機関に振り分けるシステムがあるので、それぞれのプロがそれぞれの状況に見合った形で患者さんを診る流れができているわけです。

そのため、日本でも整形内科医(保存療法のスペシャリスト)やプライマリケア医を増やしていこうとする動きがあります。

 

このように、グローバルな視点で日本の整形外科を見てみると、その特殊性がよく分かると思います。患者さんを一つの診療科で診ていく体制は、ある意味で優れた診療体制です。

しかし、保存療法がメインとなる慢性痛腰痛や肩こりなど)に限って言えば、手術の専門家が終始一貫して診ていく体制は、はっきり言って十分に機能しているとはお世辞にも言えません。

 

ただし、慢性痛におけるより根本的な問題は、今お話しした診療体制の問題とは別次元のところにあります。これについては整形外科の歴史を遡って考える必要があります

 

中世ヨーロッパでは、脊椎カリエス、くる病、ケガなどによって肢体不自由となった子供たちの社会生活への復帰が問題となっていました。そうした状況に一人のフランス人医師が立ち上がります。1741年、Nicolas Andryという内科・小児科医が「L’Orthpedie」という本を書いたのです。Orthは「正しくまっすぐ」、pedieは「子供」という意味です。

この本は子供の骨格の変形を予防し、かつ矯正する方法について書かれています。この医学書こそが「整形外科」のはじまりだといわれています。

 

日本では1906年(明治39年)、東京帝国大学の田代義徳教授がOrthopedieを訳す時に「整形外科」という言葉を作り、現在に至っています。

つまり、「整形外科」は造語なのです。

 

このように子供の骨格異常を正すことから生まれた整形外科は、その後大きく成長し、はるかに多くの問題を扱うようになりました。現在では小児から大人に至るまで、人体の運動機能のほとんどを診るようになり、その範囲はほぼ全身におよびます。そしてその中心に脈々と受け継がれているものは、

 

『目に見える形態の異常を本来あるべき姿にもどす』

 

ということです。先天性の骨格異常があれば、矯正装具あるいは手術で正常な形にもどす。骨折に対しては整復し元どおりの形にもどす。腱や靭帯の断裂があれば縫合して元にもどす。

こうした「もどす」という作業には、

 

『組織の修復をもって人体の機能を回復させる』

 

という意味があります。

 

また、整形外科は20世紀に起きた2度にわたる世界大戦によって飛躍的な発展を遂げたと言われています。兵士らが負った悲惨なケガ(骨折、銃創、腕や脚の切断など)や感染症に対応する中で、さまざまな知恵と技術が生まれました。こうした経験が近代整形外科の礎になっているのです。

 

本においても、戦前戦後の整形外科では小児の骨格異常の他は骨折や脱臼といったケガの治療をメインに行っていました。つまり「痛み」という観点から言えば、慢性痛よりもケガに伴う急性痛を診る機会の方がはるかに多かったのです。

そのため当時は慢性痛の研究者など存在せず、さらに言うならば研究どころか、そもそも慢性痛という概念すらなかったのです。

 

それでは慢性痛という概念は、いつ頃どのようにして生まれたのでしょうか?実は意外にも最近のことであり、しかもこれを見出したのは整形外科ではなかったのです。

 

後編へ続く...お退屈様でした<m(__)m>

 

 

 

※このコラムはBFI研究会代表・三上先生の書かれたブログ記事を編集したものになります。

 

 

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